沢木 耕太郎
07−174 ★★★☆☆
【危機の宰相】 沢木 耕太郎 著 魁星出版
《東京オリンピックの年が懐かしい、…》
内容(「BOOK」データベースより)
政治家・池田勇人、エコノミスト・下村治、宏池会事務局長・田村敏雄―大蔵省という組織における敗者三人が、戦後の激動期をへて、「所得倍増」という夢を現実化してゆく…。「文藝春秋」誌上に発表された幻の作品が、加筆されてついに単行本化!!『テロルの決算』と対をなす歴史ノンフィクションの傑作。
政治の話というより人間の絡みの話の方が強いような本だ。
池田勇人は、ガラガラ声であって、咽喉ガンで亡くなったが、その人生も凄いものがあったのか、大病してから人生がある。
三島由紀夫のことが載っている文が良いので書いておこう。
1959年1月(読売新聞)
《何だかだと言いながら、すでに十四年目の平和の春を迎える。平和も十四年となると、そんなにオボコの平和ではなく、かなりスレッカラシの平和である。蜜月の平和でなく、かなり風雪に耐えた平和である。それだけに手放しで甘いことも言っていられないが、土性骨も座って来たことも歪めない》
《富士山も、空から火口を直下に眺めれば、そんなに秀麗と云うわけには行かない。しかし現実というものは、いろんな面を持っている。火口を眺め下ろした富士の像は、現実暴露かもしれないが、麓から仰いだ秀麗な富士の姿も、あくまで現実の一面であり一部である》
《今年こそ政治も経済も、文化も、本当のバランス、それこそスレッカラシの大人のバランスに達してほしいと思うのは私一人ではあるまい。小さいバランスではなく、楽天主義と悲観主義、理想と実行、夢と一歩一歩の努力、こういう対蹠的なものを、両足にどっしりと踏まえたバランス、それこそが本当の現実的な政治、現実的な経済、現実的な文化というものであると思う》
《古代ギリシア人は、小さな国に住み、バランスある思考を持ち、真の現実主義をわがものにしていた。われわれは膨大な大国よりも、発狂しやすくない素質を持っていることを、感謝しなければならない。世界の静かな中心であれ》(本文より)
先日亡くなった、宮沢喜一元首相のことも出てくる。語学が堪能だったことが書いてある。ご冥福を祈ります。