ありふれた魔法
盛田 隆二
326 ★★★★☆
【ありふれた魔法】 盛田 隆二 著 光文社
《ありふれた生活にも、ありふれた魔法がやってくるのか》
内容(「BOOK」データベースより)
秋野智之は、部下の森村茜が担当する顧客に謝罪するために彼女とともに先方を訪ねた。その帰りみち、智之は彼女に、頑張ったねと声をかけるだけでなく、そっと抱きしめてあげたくなった。自分がもっと若くて、きらきらと輝いていたあのころの自分だったら…。人生の予定が狂うほどの恋などするつもりはなかった。秋野智之44歳、城南銀行五反田支店次長、妻と3人の子あり。リアリズムの名手が、理性では抗えない人間・人生の不可思議を描く。
私は、銀行の仕事がどんな内容のことをしているのか、詳しくは知らないのだが、銀行の支店というのは、大体こんなものだろう。銀行の支店のうまく描いている(現実的に)、顧客とのやりとりの描写もリアルである。今、話題のコンプライアンス、ミクシテイなども、この本に取り込まれている。
問題先には必ずふたり一組で訪問し、部下は先方の言葉を必死にメモする。貸すと言った、言わないで民事裁判に巻きこまれたときの証拠になるからだ。 (本文より)
これは、企業にいると営業の基本なようだ。必ずふたり一組ということなのが当たり前のように書かれている。テレビドラマで見る警察の捜査で警察官が二人一組もこれに近いものがあるのだろうか。
主人公・秋野智之44歳は、仕事が良くできる城南銀行五反田支店次長で家庭も3人の子供もあり、子供にもいろいろの問題があるが、ごく普通のサラリーマン家庭の夫だ。部下の森村茜は、ひと回りしたの仕事が出来る女性だ。
「人生の予定が狂うほどの恋などするつもりはなかった。」 (帯分より)ここにもっていくくだりがまったくうまいのである。男性の感情の揺れぐわいがわかるのである。銀行の支店次長と言え、小遣いは4万円、慶事、弔事などでなくなってしまう、そこで競馬のビギナーズラックを取っている。これは、おとぎ話だろうか、いや光り輝いて仕事にしていない男性にとってはそうかもしれないが、一生懸命に働いている男性には、ごく普通の話なのかも知れないのだ。たった一つのことで会社を追われるのだが、家族との修復などもよく描かれている。と、言うことは仕事で愚痴ばかり言っている私には、こういう恋など決しておきないのだろうか。
それにしても、うまいと率直に思うのだ、この本は。