自転車少年記
竹内 真
229 ★★★★★
【自転車少年記】 竹内真 著 新潮社
この本をようやく見つけ出した。田舎に帰る時間に読んだ。良かった、うーん良かった。爽やかな感じが通り抜けていく感じである。爽快無類の成長小説。
若い時期に読んだ、井上靖【夏草冬涛】を思い出していた。分厚い本であったが一気に読んだ記憶が甦ってくるのだ。少年が大人になるまでの成長小説。
昇平と草太の二人が自転車を通して、成長していく物語だ。4歳から29歳まで話だ。そこには、常に自転車が登場してくる。これを読んで、感動するか、しないか、そんな問題ではなく、子供の頃の郷愁を感じるのだ。読み出したら止められなくなる。それは、男性ならわかる何かを感じるからであろう。
でも、ここでは草太の彼女・奏さんのことを書いておく。
奏さんは、オーケストラのクラリネット奏者である。ツアーでドイツに行き、いろいろなことがあって、ベイエ先が演奏を指導してくれることになる。演奏を聴いてのこれが感想・指導なのだ。
「……少し、楽譜を追いかけすぎているんじゃないかな。ミスタッチを恐がって、音が縮こまってるみたいだった」
「そうだね。表面的に言えばそういうことになる。別に言い方をすれば、それは間違えないための演奏なんだ。聴き手に何かを伝えるための音楽じゃない」
「いいかい、間違えないための演奏をしていると、ただ楽譜をなぞっているだけになってしまう。楽譜を忠実に再現することだけをを目指すから、たった一音ミスがあっただけでその曲全体が死んでしまうんだ。だけどね、何かを伝えようとする音楽は、ちょっとくらいのミスがあっても崩れない。むしろその失敗さえも魅力に変えていくことができるんだよ」