卒業
重松 清
★★★★☆
【卒業】 重松清 著 新潮社
《まゆみのマーチ》
重松作品は、体に良くない。
最初のじんわりから最後に熱い感情が込み上げてきてどうしょうもなくなるからだ。今日も静かなカフェで読んで目頭に涙が溜まってしようがなかった。隣りのテーブルで勉学に励んでいた女性が私の方を見て怪訝な顔をしていた。
この物語に出てくるようなことを一杯知っているので読むのが辛かった。この息子みたいに1クラス上のランクの学校に進学したばかりに、精神的におかしくなった人がいた。真面目で何事も真摯に取り組んでいた良い奴だったのにと昔を振り返り思うことがある。
妹の存在が家族にどう影響したのか?
母の妹を思う気持ちは、……。
幼いときの自分は妹に対しての気持ちの持ち方は、良かったのだろうかと。
今、息子に接する態度に一抹の光明が……。
《あおげば尊し》
親父(教師)の死が見事に描かれている。
《あおげば尊し》がどこで出てくるのかと思ったが、うーんと唸らせる演出である。教師というのは、どんな職業なのかかがわかる。現在の教師像と昔の教師像の違いもわかる。それと現在の子供たちの死についての考え方である。
私も10歳くらいまでに父、お祖父、お祖母が亡くなり、死・命というのが子供心に重く圧し掛かっている。死の恐怖がいつも付きまとっているような気がする。
3年前、義兄が亡くなり、小学生の孫が焼き場から出た骨を骨壷に入れてる姿を見たときにどんな気持ちでいるのかと考えた時に尊い時間を得てるのでは、と思った。人間が骨になるのは、私もその時初めて経験したが、何か妙に不思議な時間で精神的におかしくなった。ひとりの体が灰と骨になる。生まれたからには日々を精一杯に過ごすことが一番なのだろう。
《卒業》
重松さんの作品は、主人公の世代の男性がちょっとだらしなく真面目である。今回は40歳の課長代理である。友人の子供が訪ねてくる。その友人はこの子供が奥さんのお腹にいたときに自殺していたのだ。その子供に親父の生き様をネットに書き込んで、子供の卒業と自分自身の卒業もなぞられているのだろうか。
重松作品は、家族のあり方を取り上げているものが多い。家族のなかの、父と母、父と子供、母と子供との関係、昔と今と。家族は歴史や環境によって随分違ってきているが、そのなかに流れている情愛・絆は変わらないと思う。そういう印象だが、どうだろうか。
《追伸》
誰かの読書感で重松作品は、しぜんと主人公や物語に感情移入が出来るみたいなことが載っていたが、まさしくその通りだと思う。人間でもっとも身近な家族のことを書いているからだろうか。それが身内の死を取り上げているから尚更である。いつまで経っても逃れられない家族の中の死がとき離れない。それを家族が共有して前向きな気持ちで進んで行くしかないのかも……。
この物語は、主人公の母が亡くなり、父が再婚した女性との確執がメインです。年を取ってからしかお互いを理解しあえないもどかしさが紙面から十分伝わってきます。実母を思う主人公の気持ち、継母の気持ち、仲を取り持つ父の気持ちがわかりすぎるのです。年齢を重ねるということは、哀しいことでもあります。今までの感情を全部を胸のうちに取り込めなくてはならないのですから。亡くなった母の手紙を題材にして、継母とのやりとりが《追伸》となった形で終わります。
良い作品は困ります、午後の仕事に戻るまで時間(平静な気持ちになるまでのこと)がかかるからです。