世界の中心で、愛をさけぶ
片山 恭一
【世界の中心で、愛をさけぶ】 片山恭一 著
《人間の死は共感を呼ぶのだろう。》
今年、一番話題に上がった本だろう。
映画化されたり、テレビでドラマ化されたりでメディアを
賑わした作品である。題名も出版社の編集者が付け直した
と聞く。300万部?売れた作品はどんなものかと期待を
こめて読んでみた。
題材は、好きな女性が白血病で死んでいくと言う、どこかで
聞いた物語である。
純粋にこの本を読む人にとっては、凄い衝撃を受けて涙が
止まらないだろう。書評みたいな感じで読む人にとっては、
ありきたりに思ってしまうのだろう。
僕には、良く出来ている本だと思う。
女性の感情が書かれかたが少ないが、おじいちゃんが
出てくるのが巧い。
『……「好きな人を亡くすことは、なぜ辛いのだろうか」
黙っていると、祖父はつづけた。
「それはすでにその人のことを好きになってしまったから
ではないかな。別れや不在そのものが悲しいのでない。
その人に寄せる思いがすでにあるから、別れはいたましく
、面影は懐かしく追い求められる。また、哀惜は尽きる
ことがないのだ。すると悲恋や哀惜も、人を好きになると
いう大きな感情の、ある一面的な現れに過ぎぬとは
言えないかな」
「わからないよ」
「人がいなくなるということを考えてごらん。こちらが最初
から気にも留めてない人がいなくなっても、わしらはなん
とも思わんだろう。そんなのはいなくなることのうちにも
入らない。いなくなって欲しくない人がいなくなるから、
その人はいなくなるなるわけだ。つまり人がいなくなる
ということも、やはり人に寄せる思いの一部分であり
える。人を好きになったから、その人の不在が問題に
なるのであり、不在は残された者に悲恋をもたらす。
だから悲恋感のきわまるところは、いずれも同じなの
だよ。別れは辛いけれど、いつかまた一緒になろうな、
というようにね」』 (本文より)
*表紙の写真が川内倫子さんだ。