ビタミンF
重松 清
【ビタミンF】 重松清 著
《家族って何かな》
家族、家庭の話である。
子供のいじめ、家族のあり方、夫婦の問題 7編からなる話である。
『 「最後にちょっとだけ屁理屈言っていいかな。半分、俺のやったことの言い訳になるんだけど」
黙って、言葉を待った。
「家庭っていうのは、みんながそこから出ていきたい場所なんだよ。俺はそう思う。みんなが帰りたい場所なんじゃない。逆だよ。どこの家でも、家族のみんな、大なり
小なりそこから出ていきたがってるんだ。幸せとか、そういうの関係なくな」
僕はうなずかない。
「拓己くんは、みんなが帰りたがってる場所を家庭だと思ってるんだよな。だから不倫する奴や、離婚しちゃう奴の気持ちがわからないんだ。そうだろう?」
うなずかなかったが、認めた。
「じゃあ、なんできみは自分の育った家を出ていったんだ?きみが東京でつくったたいせつな家庭って、ここにあった家庭から出ていったからつくれたんじゃないのか?」
浜野さんは踵を返し、また玄関に向かって何歩か進んで、振り向いた。
「きみとお義母さんのやってることは同じなんだよ。出ていったひとには、同じように出ていったひとを責めたり恨んだりする権利はないんじゃないのか?」
そして、もう一言、言った。
「出ていったひとを黙って迎えてやろうとするひとに反対する権利もないだろ」
僕のつくった僕の家族は、東京の、ニュータウンの、手狭なマンションの一室に、ある。たしかに、ある。そうかんたんには壊れないと信じて、壊してたまるかと誓って、けれどほんとうは、家族というものはこんなにもあっけなく壊れてしまうだとも、僕は知っている。 』
ストーリーは、二人姉弟と両親がいて、二人とも結婚したと同時に母親が家を出て会計士のもとで生活するようになる。いわゆる熟年離婚である。そして何年かが過ぎ、母親の相手の会計士がなくなり、それを知った父親が母親と暮らしたいと言い出したのだ。主人公は、父親も母親も身勝手すぎると思いがある。
姉が離婚した相手が主人公に家庭、家族のあり方を諭しているところである。
この姉の元夫は、不倫していたのだ。これにはちょっとした感情があるようだ。本書で読まれたし。
家族の危うさ、脆さ、しかし何かがある、絆がある、いったん手を離すと風船みたいにどこへでも飛んでいく。