柔らかな頬
桐野 夏生
【やわらかな頬】 桐野夏生 著
《動機は》
人間は何か、動機があって、ことにあたるのだろか。
同著者の【OUT】が最近、映画化され話題をよんでいる。厚みもあって、読みごたえのある本である。
【やわらかな頬】はお互いに家庭があるもの同士が愛し合い,両方の家族が別荘に来て,一人の子供が失踪する。子供を捜し続ける母親の物語である。
故郷からの決別、両親からの決別、こういう思いは誰でもが心に持っているものだ。
この本を読むと、人生の宿命を感じるし、人間の一生は決まってしまっているんだろうかとは思わずにはいられない。
小学5,6年になると、つい考えてしまうのが、なんでこんな家に生まれたのか、なんでこんな両親のもとに生まれたのか、なんでこんな家族の間に生まれたのか、もっと裕福な,金持ちなところに生まれてこなかったということだと思う。
人間の欲望が最初に来るのは、こんなことだろう。
もっと良い家が、欲しい。 もっと良い彼氏(彼女)が、欲しい。 もっと給料が良い会社はないか。もっと良い車が、欲しい。 と、欲望には切りがない。
だが、欲望をなくしたら、なにも残らないだろうし、ありすぎると醜いし、ほどほどが良いのだろうが、ほどほどがわからない困るのだ。
人が人をコロス動機はいろいろとあるだろうが、簡単すぎる。
気がむしゃくしゃして、女房とケンカして、そんなところに出合わせれば、人間は簡単に殺される。
余りにもむなしく、哀しい。
近頃、男子はもちろんだが女子の刑務所が大幅に不足しているという、6人部屋を8人に、いままでなかった16人部屋までしないと収容しきれなくなってきたとテレビのニュースが伝えている。
このことは、不景気、不況のせいはもちろんだが、こころのあり方が問われる時代になってきた様に思える。
『 お母さんの匂いがする。いつもと違う匂いがする。…………・
有香は、母親が自分の母親や父親を嫌いだという感情がようやく理解できた気がした。後ろで物音がしたので振り返ると、男の人がにこにこしながら有香を見ていた。
この人は私を殺すんだ。
有香は、早く殺してくれと細い頸を差し出した。 』(本文より)
本の最後の部分です。
この本を読み終ったあとに残るのは虚ろで哀しい虚無感だけである。
もっと、もっと、いいことがあるだろうに。