石の中の蜘蛛
浅暮 三文
90 ★★★☆☆
【石の中の蜘蛛】 浅暮三文 著 集英社
《この本は、聴覚・音を扱った作品です》
うーん、この本は面白かった。聴覚・音を主題にした作品だ。全編が、この音の問題を取り上げているものは少ない。《ファンタジーとハードボイルドの融合》という新しい試みだとかいてあるが、そんな大袈裟でもなく、読んでいて、音についての感覚が楽しい。
*作家本人の宣伝・書評がありました。
こんにちわ、浅暮三文です。六月末に集英社から「石の中の蜘蛛」という小説が出ました。デビュー後、二作目の「カニスの血を嗣ぐ」という小説で嗅覚を扱って以来、人間の感覚世界というのが僕の頭の中でモヤモヤしていました。次の小説は聴覚でと決めていたのですが、問題は聴覚というモチーフをどんな作品世界へと仕上げるかだったんです。
この春に出版した「左眼を忘れた男」では視覚をテーマに、その世界をコミックノベルとして仕上げてみましたが、視覚の場合はおそらく、ただ視覚を異化しただけでは、普通の幻想小説になってしまう。だってそもそも小説の大部分は登場人物の視点による世界把握という視覚情報を文章にしていますから。コミックノベルとして「左眼〜」の作品世界を戯画化したのはそこを考えてでした。
一方で今回の聴覚、つまり音というものは匂いと同様、目や手でとらえることのできない情報です。存在すれど姿は見えず、相手がそもそも形として認識されていないのですから、戯画化したところで、滑稽さがはっきりしないでしょう。確かに異化して幻想小説(ファンタジー)とするのに、違和感がない素材かも知れません。しかしそれを今までにない形で仕上げなければ、書く意味はないし、読んでいただけても、つまらないでしょう。そこが頭をひねってしまったところ。