ビジネス・ナンセンス事典
中島 らも
【ビジネス・ナンセンス事典】 中島らも 著
とび選りのものを選び、皆のものに聞かせてあげるので、こころゆくまで大声を上げて笑って欲しい。アゴが外れても、当局は一切関知しないので了承されたし。
『
ぬ・……………濡れ衣 【ぬれきぬ】 身におぼえのない罪・評判
キ ・…………
そんなことを思い出していると、エレベーターの中で私の前にいる飯島ゆかりの腰のあたりから突然、
“ぷぅぅぅぅーっ”
という屁の音がした。一瞬シーンとしたエレベーターの中を、二秒後くらいに卵の腐ったような、あるいは硫黄泉に馬糞を放り込んだような異様な臭気立ち込めてきた。営業三課の市村がたまりかねたように、
「誰だっ、こんなとこで屁をこくのはっ」
と怒鳴った。……………………・・
一同の目が、音の出所である私と飯島ゆかりのあたりに注がれた。私は泣きそうな飯島ゆかりの表情を見て我が身に罪をかぶろうかと一瞬思ったが、彼女の腐った性根を考えて思い直した。それでも、私はできるだけやさしく、
「おや、飯島くん。お腹の具合でも悪いのに無理して出社したんだね」
と言ってやった。すると彼女はキッと私をにらみ、こう言い放ったのである。
「私のお腹の具合が悪くて、どうして課長がオナラをしなきゃならないのよ!?」 』
(本文より)