灰色の北壁
真保 裕一
133 ★★★☆☆
【灰色の北壁】 真保裕一 著 講談社
「黒部の羆」
「灰色の北壁」
「雪の慰霊碑」
現在は、中高年の登山ブームだと言う。この本にも、こんな一文が出ている。
中高年の登山者が増えるのも無理はない、と思った。人生のピークを超えてしまい、家にも会社にも居場所を見出せない者が多いのだ。せめて大自然の中に身を置くことで、生きている実感を得たいと願う、切実なる動機がひそんでいる。(本文より)
ある意味当たっていると思うが、今は男性より女性の方が多いように思うとき、女性は居場所を見出せないのではなく、自然の中に身を置くことの方がより多いのではと思うのですが。
3篇とも、山の偉大さと人間の死の対比を描いているようでもある。
私など山登りと言っても軽装で行くのしか想像できないが、ここで書かれているのは、冬山の本格的なものである。私も登山家を知っているが、正月はいつもその人は冬山を登っていた。正月、その人を見かけた、そしてその人の奥さんに会ったら、今年の正月はニュースを真面目に見なくてもよいから、ほっとしてます、と言っていた。いつも、死と隣りあわせなのだ。
山岳小説と言えば、昔は新田次郎作品と決まっていた。【孤高の人】を読んでエラク感動した日を思い出す。加藤文太郎の実話で庭で野宿したり、リュクに石を入れて背負ったりの場面が思い出されるのだ。これらの作品を読んで山への思いを膨らませていた時代だった。
でも、東京一高い山、雲取山に登ったのがせいぜいだった。