きよしこ
重松 清
322 ★★★★☆
【きよしこ】 重松 清 著 新潮社
《最初読んでいてつらいのですが、いつしか泣けて感動してしまうのだ》
内容(「BOOK」データベースより)
少年は、ひとりぼっちだった。名前はきよし。どこにでもいる少年。転校生。言いたいことがいつも言えずに、悔しかった。思ったことを何でも話せる友だちが欲しかった。そんな友だちは夢の中の世界にしかいないことを知っていたけど。ある年の聖夜に出会ったふしぎな「きよしこ」は少年に言った。伝わるよ、きっと―。大切なことを言えなかったすべての人に捧げたい珠玉の少年小説。
吃音・どもりの少年とその家族、友人たちの物語だ。
主人公は、作家自身なんだろうか、そういう書き方で始まるから、多分そうなんだろう。だが、重松さんを何回もテレビで見たことがあり、喋っている感じは普通に思えたのだが、人間ってやっぱりいろいろなものを背負って生きているんだ、と思ってしまった。
私の周りにも、小学校、中学校時代に吃音・どもりの人たちがいた。言う言葉がつかえてしまうのだ、興奮すると余計にひどくなっていた。でも、性格が陽気だったので、つとめて明るくしている人たちばかりだった。あれは、気丈に陽気にしていたのかと、今では思うことが出来る。
父親の転勤が多いので、主人公・きよしも転校ばかりだ。7篇の連作短篇集である。1篇ごとに転校して成長していくが、そこで吃音・どもりの少年とそこで会う友人たちの話だ。
「きよしこ」………小学一年生 読んでいてつらい。
「乗り換え案内」…小学三年生 吃音のセミナーに参加する、そこで会う加藤少年との交流、これも読んでいてつらい。
「どんぐりのココロ」…小学五年生 5校目の転入。仲間に溶け込めず、神社でおっちゃんとの交流して学んだものは。
「北風びゅう太」…小学六年生 『お別れ会』での劇の脚本を少年が書くことになる。この章は、最後は泣けます。
「卒業式まで、あと半月ほどじゃ。小学校もいよいよおしまいじゃけえの、一日一日をたいせつに、のう、一瞬一瞬をしっかりと、一所懸命に生きていかんといけんど。ええか。今日は一生のうちでたったいっぺんの今日なんじゃ、明日は他のいつの日とも取り替えっこのできん明日なんじゃ、大事にせえ。ほんま、大事にせえよ、いまを、ほんま、大事にしてくれや……」(本文より)
担任の石橋先生の言葉ですが、これには重いことがあるから含蓄あるのです。
「ゲルマ」………中学二年生 ゲルマという迷惑な友人の話。読書感想文コンクールで四期連続の金賞を逃したと書いてあるから、持って生まれた作家だったのか。
「交差点」………中学三年生 少年、野球部のレギュラー、そこへ転校生・大野くんがレギュラーに、マサが補欠に。少年と大野くん、転校生の交流、交差点とは。
「東京」………高校三年生 和歌子・ワッチ・大学二年生との交流・恋愛?。これはちょっと切ない。
全編に流れるテーマ。
「それがほんとうに伝えたいことだったら……伝わるよ、きっと」 (本文より)
重松さんの描く家族や友人たちは、特別な人たちではないが、今日と言う日を精一杯に生きているように思えました。