グロテスク
桐野 夏生
【グロテスク】 桐野夏生 著 文藝春秋
《グロテスクは怪物なのか?》
【東電OL殺人事件】佐野眞一さんの本を以前、読み始めたが
あまりにもリアル過ぎて数ページ読んだだけでやめた。
その東電OL殺人事件がモチーフになっている。
この話が核になっているが、その他にも差別などの話を
書いてあり、読み応えがある。家族の差別、姉妹の差別、
学校の差別、会社の差別、社会の差別、誕生の差別。
桐野さんは、こういう主人公の悪意?に満ちた作品は本当に
巧い。主人公は、昼は会社員、夜は娼婦の女性ではない。
勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。
一番になりたい。尊敬されたい。
誰からも一目置かれる存在になりたい。
凄い社員だ、佐藤さんを入れてよかった、と言われたい。
誰か声をかけて。あたしを誘ってください。お願いだから、
あたしに優しい言葉をかけてください。
綺麗だって言って、可愛いって言って。
お茶でも飲まないかって囁いて。
今度、二人きりで会いませんかって誘って。
勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、一番になりたい。
いい女だ、あの女と知り合ってよかった、と言われていたい。
(本文より)
これは、昼は会社員、夜は娼婦になった女性に気持ちで
ある。この女性が年収1000万もあるのに家庭、家族の
為に娼婦になるのか、自分自身の存在の為に娼婦になる
のか、わからないが生い立ちの部分がどう作用しているの
か、作品のなかに隠されていのかも知れない。
この会社員より主人公の女性の話が面白い。こういう感覚
の人はいるのだろうか?父親を見る目、母親を見る目、妹を
見る目、友達を見る目、先生を見る目等々、すべてが自分の
目で見ていることであり、自分の感情が好き、嫌いと分かれて
いることだ。それも善意に満ちたことはほとんどないのだ。
誰でも漠然と好き、嫌いな感情はあるが明確な気持ちで
好き、嫌いな感情をもってないような気がする。
この本を読んでも、何で人間は生きているのか、と言うこと
がわからなくなる。