タンポポの雪が降ってた
香納 諒一
222 ★★★☆☆
【タンポポの雪が降ってた】 香納諒一 著 角川書店
私が知っている人は、職を何回か変わった。だから、と言って尻が軽いからと言うとそうでもない。最初の職は、長かったが会社が潰れてしまったのだ。職と言っても営業なのだから、車のセールス、厨房設備のセルース、百科辞典のセールス、セルースだけでなく事務職みたいなものもやったが、上手くいかず長続きしなかった。結局、最初の営業に戻ってきて、今もそれは続いているのだ。最初について、ある程度経験した職業は肌に身に付いてしまうようだ。サラリーマンが直ぐにラーメン屋に転向するのもかなりの忍耐と努力が必要になってくるのだろうか。
この本は、7編の短編集からなっている。
最後の「不良の樹」と言うのが実に良い。ちょっとした人情物なのだ。兄が刑期を終えて刑務所から帰ってくるところから始まるのだ。兄は、親父の跡を継いでラメーン屋の弟のところに帰ってきたのだ。兄は、製麺を作っていたが借金の取立てなどいろいろなことがあり、兄が言うのである。
「だけどな、英治。どうも俺にゃ、こういう暮らしには自信が持てねえんだ。なんだか、てめえがてめえじゃないような気がする。おめにゃ、今日目にしたような暮らしが異常に思えるかもしれねえ。そして、恐ろしいものに思えるかもしれねえ。だけどな、俺には毎日黙々とラーメンを作って、家族や親戚を大事にして、朝起きてから眠るまで汗水垂らして働く。そんな暮らしのほうが、どうやら恐ろしくてならないのさ」(本文より)
一度、不良の社会が身に付くとなかなかそれから抜け出すことは難しい。それは、不良な社会ばかりでなく、何でも当てはまるような気がするのだ。