八月の路上に捨てる
伊藤 たかみ
282 ★★★☆☆
【八月の路上に捨てる】 伊藤 たかみ 著 文藝春秋 芥川賞受賞作
《八月に捨てる男もあれば、拾う女もある…》
出版社 / 著者からの内容紹介より
暑い夏の一日。僕は30歳の誕生日を目前に離婚しようとしていた。愛していながらなぜずれてしまったのか。現代の若者の生活を覆う社会のひずみに目を向けながら、その生態を明るく軽やかに描く芥川賞受賞作!他一篇収録。
綿矢りささんが芥川賞受賞後書いたものが、河出書房新社の「文藝」に出ているというので、書店に見に行った。もっと短篇かと思ったら、かなり長いので眺めるだけにした。その「文藝」の特集が伊藤たかみさんだった。かなりの厚さを占めていて、対談などで伊藤たかみさんを深く掘り下げている。ちょっと、と言っても10分くらい読んでしまった。
この本を読んで第一番目に感じたことは、伊藤たかみさんの顔付きがそのまま文章に出ているように思った。気どらずに伊藤たかみさんの雰囲気がそのままに。私は、初めて読む作家さんなのでよくわからないが、たぶん他の作品も同じ感覚であるように思えてくるのだ。
トラックに乗って、水城さんと主人公・敦の二人が自販機を廻って補充する仕事をしている。その八月の暑い一日を切り取っている。離婚した水城さんと離婚する主人公・敦との会話と主人公・敦と妻・千恵子との二人のなりそめから結婚生活までの話を書いている。恋愛しているときはふわふわしていたが、結婚するとお互いの意識がガツガツになってくる。結婚とは厄介なものである、相手を認め合ったつもりが空回りばかりになってしまう。そんな心の中が上手く表現されているように感じる。最後に水城さんが再婚する人との食事に行くこと、それが転勤になるのだが、再婚する女と離婚する男とを対比させてまとめている。
伊藤たかみさんの言葉もところどころにどきーっするものがある。33ページの文を。
― 東京で生きていくには、ただ息を吸うだけでも金が要る。
「貝からみる風景」も何気ない若い夫婦の話も良かった。