銃
中村 文則
302 ★★★☆☆
【銃】 中村 文則 著 新潮社 第34回新潮新人賞受賞作、第128回芥川賞候補作
《銃というものは、人間というものは、哀れである》
内容(「BOOK」データベースより)
昨日、私は拳銃を拾った。これ程美しいものを、他に知らない―。ある夜、死体の傍らに落ちていた拳銃。それを偶然手にした私は、次第にその“死と直結した機械”に魅せられていく。救いのない孤独と緊張。膨らみを続ける残酷な妄想。そしてその先には、驚愕の結末が待っていた…。非日常の闇へと嵌まり込んだ青年の心の軌跡を、確かな筆力で描く。若き芥川賞作家、堂々のデビュー作。
昨日、私は拳銃を拾った。あるいは盗んだのかもしれないが、私にはよくわからない。これ程美しく、手に持ちやすいものを、他に知らない。― (本文より)
こんな文章で始まる物語は、偶然に自殺者の使った拳銃を拾ったばかりおきる大学生の主人公の心理状態に変化が伴う、日常が拳銃をもつことでの非日常の生活に。そこで、どうしても拳銃をもったことで使いたくなる。ここで、心の葛藤がおきる、捨ててしまわなくては、と言う思い、それとは別な拳銃への思いが。最後は、…。
「遮光」という作品は、亡くなった恋人の指をホルマリン漬して持ち歩く作品だが、この作品では、「銃」では、拳銃である。こちらの作品が初めのようだが、人間のもつ心の変化を巧みに描いているのだ。
私はその時、少し、気の毒に思った。それは機械であるから、私のその感情は正しいものとはいえなかったが、しかし私はそれを感じた。この人を殺す為だけに作られた機械に対し、私は同情に近い何かを感じた。人を殺す為という運命は、この拳銃が選び取ったものではないような、よくわからないが、そんな気がした。… 中略 (本文より)