風味絶佳
山田 詠美
206 ★★★☆☆
【風味絶佳】 山田詠美 著 文藝春秋
「間食」
「夕餉」
「風味絶佳」
「海の庭」
「アトリエ」
「春眠」 6篇
作家、あとがき
世に風味豊かなものは数多くあれど、その中でも、とりわけ私が心魅かれるのは、人間のかもし出すそれである。ある人のすっくりと立った時のたたずまい。その姿が微妙に歪む瞬間、なんとも言えぬ香ばしさが、私の許に流れつく。体のすべての器官を使って、それに触れて味わおうとする時、私は、自分の内に、物書き独特の欲望が湧き上がるのを感じる。食欲とも性欲とも知識欲とも異なる、あえて名付けるなら描写欲とでも呼びたいような摩訶不思議な欲望。
6篇とも男性の職業・職人からの風味を嗅ぎとろうとする作家の描写には、凄いとか言いようのないものを感じてしまうのだ。
私は、どうも、この作家の文章が、短いセンテンスなのが、読みづらくてしょうがない。ようやく慣れてきたときが、「海の庭」だった。3篇すぎていた。
「海の庭」は、離婚した母・娘との幼なじみ引越し屋・作並くんとの微妙な距離感を娘・日向子の目を通して描いている。日向子のサーファー友達・若い男が引越し屋・作並くんを「だせー」と言う。そのことで、日向子は、涙が止まらなくなるくだりは、女性しかわからない感情なのだろうか。
人は、一瞬、一瞬に生きている。その出来事が、その人の皮膚に知らない内に入りこんでいる。それが、その人の感覚であり、財産なのか。良いものを食して、良い風味だったと言う印象に残る本だった。