離婚まで
藤本 ひとみ
【離婚まで】 藤本ひとみ 著
《結婚とは? 》
この結婚が本当なのか、問いただしていく話(自問自答)である。自叙伝的と帯にうたってあるので現実感がある。同窓会に帰郷して、初恋のひとに会い、離婚を決意するまでの話である。結婚は単に母親との確執のためか、家族のいない距離にいたかったためか、なんで無気力な男を選んだのか、なぜその男の両親に尽くさなければならないのか、いままでの結婚生活がどうだったのか?何十年ぶりの帰郷に合せて考えるのである。
夫の幼稚さが出ている部分を紹介してみる。
『 加奈子は、トマトやオレンジを四つに切る。家族は四人であるから、一人一切れになるのは、あたりまえである。ところが夫が先に、自分のほしいだけ取ってしまうのだった。他の料理に関しても同様である。加奈子にしてみれば、育ち盛りの娘にこそ、豊富にたべさせたい。ところが娘たちが食卓に向かう時は、すでに夫が食べ荒した後なのだった。
買い置きをしておいた苺パックを冷蔵庫から出してみると、かなり傷んでいたことがあった。満足に食べられそうなものを選んで洗い、数えたら、六粒しかなかった。加奈子は、子供たちが二つ,大人が一つずつ食べればよいと思った。あるいは、夫に二つやってもよい。ところが娘たちがやって来た時には、すでに二粒しか残っていなかった。下の娘がうらめしそうに言った。
「私、いらない。だって私が食べたら、ママの分がなくなっちゃうもん」
上の娘は、すでに食事を終えてテレビの前に移動していた父親をにらんだ。
「パパが食べちゃったんでしょ」
夫は不服そうな顔でふり返った。
「四つしか、食べてない」
もっと食べたいところを遠慮したと言いたかったのであろう。家族全体のことに考えがおよばない夫は、確かに我慢をしたのである。全部食べたかったのに、四つで我慢をしたのだった。
(本文より)